先行き不透明な広告代理事業。その中でも生き残っていく会社、そして個人とは?
近年、マス広告が衰退する一方でインターネット広告が伸長するなど、広告代理事業を取り巻く環境が大きく変化しています。それに伴い、従来の広告モデルのままでは成長が難しくなってきました。そこで本記事では、業界の先行きに不透明感が漂う中で、どのような会社や個人が生き残っていくのかについて解説します。
1.広告業界を取り巻く現状―衰退するマス広告と興隆するインターネット広告
まずは広告業界を取り巻く現状について見ていきましょう。
日本経済の低迷が続くなかでも、総広告費は一貫して増加しています。図1から分かるように、2011年に約5.7兆円だった総広告費は、2019年には7兆円近くにまで拡大しました。
図1:日本の総広告費
出典:「2019年 日本の広告費」解説―インターネット広告費が6年連続2桁成長、テレビメディアを上回る | ウェブ電通報 (dentsu-ho.com)
これほど総広告費が増加している背景には、インターネット広告の興隆があります。図2をみると、テレビメディア広告費は停滞ないし減少傾向にある一方、インターネット広告費は増加の一途をたどっていることが分かります。2019年にはついに、テレビメディア広告費を追い抜きました。
図2:テレビメディア広告費とインターネット広告費比較
出典:2019年 日本の広告費 – ニュースリリース一覧 – ニュース – 電通 (dentsu.co.jp)
なお、テレビメディアだけでなく、新聞・雑誌・ラジオを合わせたマスコミ4媒体の広告費も減少傾向となっています。
表1:マスコミ4媒体の広告費
広告費(億円) | |||
2017年 | 2018年 | 2019年 | |
マスコミ4媒体広告費 | 27,938 | 27,026 | 26,094 |
新聞 | 5,147 | 4,784 | 4,547 |
雑誌 | 2,023 | 1,841 | 1,675 |
ラジオ | 1,290 | 1,278 | 1,260 |
テレビ | 19,478 | 19,123 | 18,612 |
※「2019年 日本の広告費」解説―インターネット広告費が6年連続2桁成長、テレビメディアを上回る | ウェブ電通報 (dentsu-ho.com) の「媒体別日本の広告費」(2017~19年)をもとに作成
こうした背景から、近年はネット専業代理店の勢いが増してきました。
さらに、ネット専業以外の代理店でも、ネット広告事業を拡大する動きが見られます。具体的には、デジタルマーケティング部門の新設や強化、ネット専業代理店のM&A・子会社化などです。
2.従来の広告モデルでは成長は厳しい
「マス広告の衰退・インターネット広告の伸長」という環境変化を踏まえると、広告代理店が従来型の広告モデルのまま成長を続けていくことは困難になりつつあります。
その理由として、以下の3つが挙げられます。
①広告主側におけるインハウス化
1つ目は、広告主側におけるインハウス化の進展です。デジタル広告の伸長に合わせて、社内に広告やマーケティング関連の部署を設立・拡大する動きが目立ってきています。
企業が自前で広告を運営すれば代理店に委託する必要はなくなりますが、これは代理店にとって既存のマーケットの縮小を意味します。
②デジタルマーケティング分野における超大手媒体の台頭
2つ目は、デジタルマーケティング分野における、GoogleやFacebook、Yahooなど超大手媒体の台頭です。多くの企業はインターネット広告を出稿する際、これら超大手媒体を選択するようになりました。特にGoogle Adsが台頭したことで、広告主がネット広告を出稿する際の選択肢は狭くなったといえます。
すでに巨大なシェアを誇る大手媒体がある中で、他の広告媒体が事業を拡大するのは容易ではないでしょう。
③コンサル業界との競合
3つ目はコンサル業界との競合です。近年、デジタル分野を中心に、広告代理店が担っていた事業にコンサルティングファームが進出するケースが目立っています。というのも、単にデジタル広告を出稿するだけでなく、ユーザー行動の分析や課題解決など、コンサル会社の得意分野に対する需要があるからです。
その過程で、コンサル会社が広告代理店を買収するケースも起きています。たとえば2016年には、アクセンチュアがIMJを傘下に収め、2021年には吸収合併しました。
以上の要因から、広告代理店の果たす役割や独自性は薄れつつあるといえます。
企業体力・規模の面から電通や博報堂などは生き残れるかもしれませんが、それ以外の代理店は従来の広告モデルに固執している限り、成長するのが難しい状況にあります。②や③の理由から、ネット専業代理店も決して安泰とはいえません。
こうした状況で企業や個人が生き残るにはどうすればいいのでしょうか?次章ではまず、企業の生き残り戦略について解説します。
3.広告代理店が生き残るにはどうすればいい?
広告代理店が生き残るためには、第一に広告が持つ性質の変化を読み取ることが大切です。
近年の広告には、商品・サービス・ブランドの宣伝だけでなく、社会的メッセージ性も求められつつあります。たとえば世界最大のクリエイティブの祭典である「カンヌ・ライオンズ」では、ジェンダー平等や黒人差別反対など、社会課題の解決を意識したCMが注目を集めています。
また、TVCMのような「誰もが観る」広告だけでなく、YouTube広告のように「限られた層の視聴者」に刺さるものを作る必要もあるでしょう。
第二に、新たなメディアの登場に適応することも重要です。VRを使った没入型の広告など、今までになかったスタイルの広告が登場するのに合わせ、より魅力的な広告を作る必要があります。
第三に、合併・買収も1つの手段だと捉える視点も大切です。
コンサル会社などが代理店そのものを取り込むことで、より効果的な広告を行えるようになる可能性があります。また代理店側にとっても、自社の強みを生かせる企業と組むことは決してマイナスではないでしょう。その際には、適切な買収先かどうか見極める姿勢が必要です。
次に、個人としての生き残り戦略について解説します。
4.個人としてどう生き残るべきか?
個人としての生き残りを考えるうえで大切なのは、「広告代理店」のみに固執しないことです。
なぜなら、これまで見てきたように、代理店以外でも広告・マーケティングに携われるようになってきたからです。たとえば、コンサル会社やインハウス化した企業の広告・マーケティング担当として活躍することも選択肢に入ります。
かつては(特に大手の)広告代理店に勤めること自体が1つのステータスとなっていたかもしれません。しかし、従来の広告モデルが通用しなくなりつつある現在では、そうした「肩書き」ではなく、どこでも通用する広告やマーケティングのスキルを身につけることが大事になってきた、といえるのではないでしょうか?
このような意識を持ち「個」としてのスキルを磨いていけば、将来的に独立して活躍する力も身につくはずです。
特に、インハウス化した企業にフリーランスのスペシャリストとして参画することや、小規模・中規模案件の受注といった形での活躍が期待できます。
従来型の広告代理店は衰退していくトレンドだとしても、「広告」自体はなくならないこと、そして広告に関するスキル・ノウハウは必要とされ続けることは意識しておきましょう。
5.まとめ―広告業界の変化・ニーズを読み取り、活躍の場を広げよう
今回は、先行き不透明な広告代理事業において、会社や個人はどう生き残るべきかというテーマで解説しました。
まとめると以下の通りです。
・マス広告費は減少傾向の一方、ネット広告費の伸びは著しい。
・デジタル分野を中心に、企業のインハウス化や超大手媒体の台頭が進んでいる
・コンサル会社の参入・買収などもあり、従来の広告モデルでの成長は厳しい
・会社としては、広告の性質の変化や新たなメディアへの適応が大切
・個人としては、代理店に固執せず、活躍の場が増えたとポジティブに捉える
・スキルを身につければ、独立して活躍する道も開かれている
目まぐるしく環境が変わる広告業界で生き残るため、従来のビジネスモデルにこだわらず、新たなニーズを汲み取り、ビジネスのスタイルや働き方を変えていきましょう。
この個人としてての生き残りは、そのまま独立する力にもつながるとつなげたいです。